(以下は、2013年6月23日の旧日記の記事を、フォーマットを統一させるためにコピー&ペーストしたものです。)

 


 

本日は皆様に、「レザーのイニシャルケア」の仕方をご紹介したいと思います。「レザーのイニシャルケア」、日本語で書くなら「革製品の最初のケア」となります。これはつまり、「新品の革製品を使い始める前にして頂きたいこと」ということです。

といっても、難しいことは何一つありません。これからご紹介する内容をご覧になって、「これだけでいいの?」と思われるかもしれませんが、実際これだけで十分ですし、これだけやって頂きさえすれば、その後の楽しみや安全さがまったく違ってきます。水分やオイルが適度に与えられることによって、傷や汚れ、雨などへの耐久性が格段に増しますし、その適度な水分やオイルゆえに、いわゆる「革の経年変化」も味わい深く進行していくことになります。

以下の方法は、メンズのビジネスシューズなどフォーマルなアイテム以外であれば、たいていの革製品にお使い頂けると思います。大の革好きを自認する私自身、カジュアルのレザーシューズ、一部のレザージャケット、レザーバッグ、レザーウォレットなど、価格が高いものでも安いものでも、このケアで済ませてしまっているものが多いです。(逆に、もっと手のかかるケアを一生懸命した挙げ句、それでとんでもないシミをつくってしまったことがあります。)

一方、一般的にクリームをつかったケアの方が「かかる費用」はだいぶ小さく抑えられます。さらに、個人的に、ケアの精度や充実度はクリームの方が優れているとも思います。当然ながら、クリームの方が相性が良いアイテムもあります。ただ、クリームをつかったケアには一定の知識やスキルが必要であることや、シミのリスクが常につきまとうなど、結局のところ一長一短なんですよね。以下でご紹介するのは、「どなたでも気軽にやって頂ける方法」ということがその最重要テーマですので、その点を予めご了解頂けましたらと思います。

 


 

それでは、以下ご紹介します。

まず、ご用意頂くものは3つ。

(1) コロニル「1909 シュープリームプロテクト」スプレー
(2) 馬毛ブラシ
(3) ケアをするレザープロダクトそのもの

 

以下の一連の画像では、(1)のスプレーについて、旧製品の「プレミアムプロテクト」がつかわれています。「1909 シュープリームプロテクト」は、その「プレミアムプロテクト」が改良されて発売された製品で、双方の使い方はまったく同じとお考え下さい。(私自身が私物をつかって双方の使用感や特徴などを下調べしております。)

 

(1)は革に栄養を与えるためのスプレーですが、とにかく優秀です。何が優秀かというと、

  1. シミになりにくい(というより私自身はシミにしたことがない)
  2. この手のスプレーにありがちな違和感満載の光沢が出ない
  3. それでいてスプレーされた革はしっとりと潤う(栄養であるオイルと水分がしっかりと入っている証拠)
  4. ケアをしたあとも革自体の色にほとんど変化は見られない(クリーム剤の場合しばしば色が濃くなる)
  5. 防水・撥水機能ももちろんある

など、挙げればきりがありません。それほど「優秀」なのです。逆に、唯一といっていい難点をいえば、一般的な防水スプレーよりも価格が若干高めであることでしょうか。

 

(2)では、デリケートレザーでも使えるようにと、比較的やわらかい馬毛を選びました。ビジネスシューズのホコリ落としなどでは豚毛が良いとも言われていますが、私自身はそれも含めてほとんど馬毛を使っています。また下で書きますが、このブラシは高級である必要はまったくありませんが、あてる革の色毎に、個体そのものを変えて頂きたいです。レザーの色が濃いときにはほとんど気にする必要はありませんが、レザーの色が淡いときに、それまで濃いレザーにあてていたブラシを使うのはかなり危険です。(色移りする可能性がとても高いです。)

 

(3)については、今回の記事では、ナチュラルレザーのバッグを使います。当然ながら、今回のケアをする以前は、購入したままの新品状態でした。対象が靴の場合でも、ケアの方法や注意点はほとんど同じです。

 


 

それでは、いよいよイニシャルケアを始めてみます。

ケアする素材は、こちらの私物のレザーバッグ。革をなめしただけ、着色は一切されていません。汚れや傷が恐いです(汗)。でも私、純粋無垢、こういうまっさらなレザーが大好きなんです。この状態から育てていくのが、革好きには何よりの快感なんです。
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この通り、ベージュというよりホワイトに近いくらいの色味です。こうい色のレザーは汚れや傷以前に、イニシャルケアでシミを作ってしまう危険があり、もしそんなことになったら本末転倒ですね。
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それでは、外に出て、コロニルの「1909 シュープリームプロテクト」(注:画像はプレミアムプロテクト)を持って準備万端。いきますよ~!
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<第1章: スプレー編>

 

では、まずは正面からまいります。私がスプレーしていく様子を分かりやすく見て頂くために、以下何枚かの写真を羅列します。一連の流れとしてご覧下さい。

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マニュアル的にはもう少し、対象から20cmくらい離した方が安全です。ただ、実際この距離(10cmくらい)でスプレーしても、まったくシミになりません。この安心感が、このスプレーの数ある魅力のなかでも最大の魅力だと思います。
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革の状態が良いので、スプレーした先からどんどん乾いていきます。スプレーのオイルと水分を、革が瞬間的に吸い込んでいくんですね。カピカピになって繊維が死んでしまっている革や、あるいは逆に極端にオイリーな革の場合は、スプレーした箇所から白い泡や粉が吹き出したような状態になることがあります。(それでも、シミにはならないはずです。)

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だいたいこれで、片側はスプレー完了といったところ。(裏側もやりましたが、同じ作業なので画像は割愛します。) なお、このバッグではあっという間に水分が飛んでしまっていますが、そのまましばらく革がしめっているのが普通です。そして、その状態で問題ありません(じきに乾きます)。水分が溜まっていたり、泡が吹き出していたりする箇所があったら、そこは放置するとシミになるリスクがありますので、ブラシでササッとならしてあげて下さい。

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当然ですが、正面だけでなく、こうして側面も、両側ともにしっかりスプレーします。
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バッグをスプレーするとき、意外と適当になりがちなのが底面です。でもバッグの場合は、底面が一番ダメージを受けやすいわけですから、他の箇所と同じように、しっかりとスプレーしてあげて下さい。
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そして、細かいところは特に気を付けます。たとえば、バッグであればこういう取っ手の付け根のあたりとか・・・

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取っ手そのものとか・・・
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こういうバッグの「ふち」の部分とか。このあたりはすべて細かい場所なのですが、改めて考えてみると、圧や摩擦がとてもかかりやすい箇所なんですよね。
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あとは縫い目です。ここも強い負荷がかかる箇所で、カラカラに乾くと革が裂けたり糸がほつれたりするリスクがあります。靴でも一緒です。たとえばソール(=靴底)とアッパー(=靴の本体)のつなぎ目などは、遠くからのスプレーでは届かない場合があります。そこをめがけて、しっかりとスプレーしてあげて(=栄養を与えてあげて)下さい。
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ここまでで1セットです。今回のサンプルであるバッグでいうと、2~3分の作業でしょうか。

可能でしたら、これを2セットやって下さい。

つまり、1セット終わったら、また正面からぐるりと一周スプレーし直して、それで終了です。このスプレーを使う量としては、この大きさのトートバッグ1つやレザージャケット1着につき、丸々1缶を使い切るくらいでちょうどいいです。驚かれるかもしれませんが、このあと一生使い続けるかもしれないアイテムです。それを実現させるための初期投資と思って、惜しみなく使ってしまってください。

また、たとえばkokochi sun3の靴でしたらこの2セットでスプレー1缶の3分の1~半分程度、レディースのロングブーツ、メンズのワークブーツなどでしたらこのスプレー1缶の半分~3分の2程度の消費量が妥当かと思います。

 


 

<第2章: ブラッシング編>

次に、スプレーを馬毛ブラシに持ち替えてブラッシングです。何度でも繰り返しお伝えしたいのは、このとき、だいたいの革の色毎に、違う個体のブラシをお使い頂きたいということです。特にホワイトやベージュなど淡い色のレザーの場合、ブラッシングでの色移りのリスクがとても大きいです。今回の場合、この馬毛ブラシは新品です。私が持っている他のどのレザーよりも淡い色なので、新品のブラシをおろす必要があると判断しました。

さて、イニシャルケアの際のブラッシングは、(払うべき汚れやホコリがほとんどないので)本当に「ざっと」で十分です。スプレーで局地的にたまってしまった泡や粉をならすくらいのイメージです。今回のバッグの場合、丸々1缶使ってしっかりとスプレーしたのに、ブラッシングをし始める頃には全体が乾いてしまっていました。なので、本当に「ざっと」です。通して2~3分といったところでしょうか。
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ブラッシングするときの力の入れ方は、革の種類や状態によって違います。たとえば、MUKUでつかわれるディアスキン(=鹿革)は表面がそれほど強くないので、ブラッシングはやさしくなでる程度が良いかもしれません。また、今回のケアの対象になっているバッグのような分厚い牛革の場合は、女性であれば「ほぼ全力」といってしまっていいと思います。以下の画像でもお分かり頂ける通り、私も相当な圧でブラシを革にあてています。
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こういう革の縫い目は、ホコリやオイルなどがたまって、カビが生えて腐ったり、虫が湧いたりしやすいところ。イニシャルケアのときに限らず、局部的にしっかりブラッシングしたい箇所です。(何度もいいますが、靴の場合も同様です。)
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このような、意識しないとブラシがあたらないような場所も注意が必要です。先ほどのスプレーのカスなどが溜まってしまって、やはりカビや虫の温床になりかねません。
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取っ手も。というより、すべての箇所です。満遍なくブラッシングします。
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<第3章: 風通しの良い場所で陰干し(丸1日)+仕上げのブラッシング>

 

以上で手のかかる作業はおしまいです。通して20分くらいではないでしょうか。慣れてくれば20分もかかりませんし、靴ならその半分くらいの時間で終わってしまうと思います。

こちらが、スプレー+ブラッシングが終わった時点のバッグ。
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あれだけ近距離で(←これは真似しないで下さい)、しかも1缶丸々使い切ってスプレーしたのに、シミ一つ残っていません。それどころか、何が変わったのかよく分かりません。革の色の変化も、特にみられません。(画像が暗いのは、ちょっと空が曇ってきたためです。汗)
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この状態で、風通しの良い場所で陰干しをし、そのまま丸1日程度置いておいて下さい。スプレーしたということは、オイルと水分を革に染み込ませたということです。たとえばこの状態ですぐに密閉したりすると、これもやはりカビや虫が大好きな環境を作り出してしまうことになります。たくさん食べて飲んだら、ゆっくりと深呼吸でもしながら休みたくなるのは、人間も革も同じなのです。

そしてこの陰干しのあと、イニシャルケアの総仕上げとして、また全体を満遍なくブラッシングします(「ざっと」でOKです)。陰干し後の革の表面は少し粉っぽいのが常ですので、それを払ってあげて下さい。この最後のブラッシングにより、革全体がしっとりとして、その結果とてもナチュラルな光沢が生まれるはずです。

 


 

<第4章: イニシャルケアのあと>

 

イニシャルケアがすべて終わったら、あとは存分にそのレザーアイテムをお使い頂くわけですが、強いていえば、そして無理のない範囲で、以下の3点についてご注意し、そして実行して頂けると革も喜びます。

  1. 使い終わった直後に毎回ブラッシング(数十秒でOK)
  2. 使い終わったあとに風通しの良い場所での陰干し24時間(特に靴!)
  3. (仮に週3回の使用の頻度であれば)四半期に1度のメンテナンス・ケア

 

(1)については、帰宅したらすぐに、これも「ざっと」で良いので、全体をブラッシングしてあげると良いと思います。やり方は上記<第2章>でお伝えした内容とまったく同じです。(ちなみに私自身は、帰宅したら自分の手洗い・うがいの前に、必ずその日に履いた靴をブラッシングします。私の靴たちの物持ちの良さを考えると、これは結構効果的といえるかもしれません。笑)

 

(2)については、上記<第3章>でお伝えした理由・内容ですね。そしてこのことは、特に多量の汗(=水分)を吸い込む革靴ではぜひともお願いします。単に置いておけばいいだけですから。そして、同じ革靴を毎日履くことは、なるべく避けてあげて下さい。また基本的に、レザーアイテムの長期間の密閉は避けて頂きたいです(革は呼吸しています)。

 

(3)の頻度でざっくりいうと、四半期から半年くらいで革がまた栄養を欲しがる頃合いになります。その頃に、上記<第1章>~<第3章>のプロセスを繰り返してあげると良いかと思います。(この場合のメンテナンスはイニシャルケアではないので、栄養をスプレーする前にクリーニングが必要なときがあります。これについては、また機会を改めてご説明します。) なお、私自身の場合は、同じレザーアイテムを高頻度では使わないので、だいたい半年から1年に1度くらいの頻度でメンテナンスをしています。

 

今後、ご自分がレザーアイテムを手にされた際、お使い頂く前に、以上のようなことをして下さると良いと思います。質の良いレザーアイテムは、しっかりとしたケアをして頂ければ、大げさでなく、人間の一生くらいなら良い状態を維持してくれます。(そうでないと、ヴィンテージのレザーアイテムなんて存在しないことになります。) そしてそうあることで、自分と一緒に年輪を重ねていくレザーアイテムへの愛着がどんどん増していくわけです。

 


 

インタレストは革屋ではありませんが、革はインタレストのコンセプトである「洋服を楽しむ」を体現できるうってつけの素材だと感じています。そして幸い、私たちが取り扱っているkokochi sun3は、「洋服を楽しむ」ことに耐えうる、とても良い革を使っています。皆様と一緒に、洋服を、革を、ずっと長い間にわたって楽しんでいければ嬉しいです。